めいほう 春の風景
長い冬を終え、いまだ草木の芽吹かない早春。雪が溶けた野山には、
フキノトウが顔を出し、まだモノトーンの山の斜面には、
ポツリポツリと純白のコブシ(タムシバ/モクレン科)が咲き始めます。
薄雲がかかったような山々の風景。春霞をまとい、静かな雨が降り注ぐころ、
植物は一雨ごとに、ぐんぐんと伸びていき、大量の雪解け水は、
川へと流れ、川虫や魚たちも忙しく動き始めます。ようやく訪れた春の光を浴び、
山の淡い緑は、刻一刻と濃さを増していくのです。
里の畑では、土づくりや、春蒔きの準備に追われ、井普請(水路の掃除)から始まって、
田んぼの1年もスタートします。お母さんたちは、時間を見つけては、野山に出向き、
山菜を摘んできては、下処理をして、干したり、冷凍したり。
この季節、食卓には、山菜料理が並びます。タラノメの天ぷらに、フキ味噌に、ワラビの煮物……。
雪の下で寝ていたネギを切って湯がいて、ザルにとり、味噌と砂糖で和えたおかずも加わります。
山菜の苦味と、雪の下で、あまーくなったネギの味。しみじみと春を感じるのです。
雪深い山里の桃の節句は4月3日。男女の区別なく子どもたちの節句として、
昔の子どもたちの大きな楽しみのひとつでした。
節句のやわいはだいたい3月の終わりから。「やわい」とは「準備」のこと。
デコノボーと呼ぼれる土びなをだして並べ、お母さんは、ひし餅をはじめ、
小豆飯や煮しめ、菓子椀といったごっつおづくり。
ヒイナサマ 見セトクレ。
子どもたちは、まだ寒い土手でモンサ(ヨモギ)を摘んだり、
桃の枝やひいなさまの箸にするアサヅケ(アサツキ)をとりに行ったりとお手伝い。
なにしろ、よその家のお供えを勝手にあがりこんで食べてしまってよい、
という「ひいなあらし」という風習があったので、子どもたちは、それはそれは楽しみにしていたのです。